上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
- --/--/--(--) --:--:--|
- スポンサー広告
-
-
小さな、女の子が生まれた。この子を孕んだ母親のお腹は普通の妊婦より大きく膨らんでいて、しかも予定よりも一ヶ月遅く生まれて来たにも関わらず、出てきた赤ん坊は、新生児の平均を大きく下回る、身長30cm、体重2000gしかない未熟児だった。呼吸が上手くできず、半年は酸素吸入器をつけていた。そんな我が子に両親は、健康に育つことを願い、“育枝(いくえ)”と名づけた。木々の枝のように、すくすくと育つ子であって欲しいと。世に、竹長 育枝(たけなが いくえ)の誕生であった。幸い、生後半年を過ぎてからは呼吸機能も安定し、他の子と変わらない生活ができるほどになった。
しかし、そのような両親の願いを裏切るように、育枝の成長は、止まったのだった。退院してしばらく経った後、ようやく新生児の平均である身長50cmに達したところで、身長の伸びが見られなくなってしまったのだった。生後一年経っても成長の兆しはなく、両親は医師に相談したのだが、身体に以上はなく、むしろ全くの健康体であり、結局医師の下したのは、原因不明の小人症だった。呼吸、食事、排便、全てにおいて問題がなかったのだから。
成長を見せないまま育枝は三歳になり、父親の意向で幼稚園に入園した。幸い、ただ体が小さいというだけで、脳や思考力といった知的分野においても問題はなかったからだという。身体的な活動を補助するという形で、ベビーシッターを雇い、一人でも安全な場所以外では、育枝はベビーシッターに抱っこされて過ごした。父親は自ら立ち上げた企業を今や大手企業にまで成りあげた実業家かつ資産家であったため、娘のための出費は惜しまなかった。食欲は体の割りに旺盛だったため、二人は育枝に栄養価の高いものや特に牛乳を多く摂らせた。
「おとうさん、おかあさん、なんでいくえはみんなよりちいさいの?」
「……それはね、後から大きくなるために、力を蓄えているからよ」
「いつおおきくなれるの?」
「もう少ししたらなれるよ、お父さんも、成長は遅かったほうだ」
両親は自分達に言い聞かすように何度も育枝にそう教えた。
育枝の自宅である豪邸の隣には、父親の同業者、言わば不可欠な片腕のような男が住んでいる。その男も家庭を持ち、育枝と同い年の子供がいた。育枝よりも数ヶ月前に生まれた、光輝(こうき)という男の子だった。優しく世話好きな性格を生まれ持ったのだろうか、初対面した一歳の時から幼く拙いながら、育枝を労わろうとするような行動が垣間見えていた。二人はおのずと互いに最も親しい間柄になった。
「いくえちゃん、ぼくがいくえちゃんをまもってあげるからね」
「うん、ありがとう、こうきおにいちゃん。いくえ、こうきおにいちゃんだいすき!」
成長の早かった光輝が育枝を腕に抱え、遊ぶこともしばしばあった。まるで兄妹のようだった。それ故に育枝は光輝を兄のように慕っていた。そのまま二人で小学校に進学する。
小学校入学は育枝にとって人生最大の転機となった。両親の願いが天に届いたのか、それとも育枝がそういう運命にあったのか、入学と同時にやっと育枝に成長期が訪れたのだった。入学写真ではベビーシッターに抱えられて写っていた彼女は、半年経つと学校の廊下に設置された手すりとほぼ同じ高さにまで成長した。
育枝:小学校一年半年 76cm
光輝:小学校一年半年 133cm
ようやく育枝は光輝と手を繋いで歩けるようになった。付き添いのベビーシッターは不要になり、少々苦労することはあれ、普通に生活することができるようになってきたのだった。そして二年生になる頃には、クラスで背の順に整列して一番前にいても、確かに少々浮いてしまうが半年前ほどの違和感はなくなった。
育枝:小学校二年 102cm
光輝:小学校二年 137cm
「いくえちゃん、大きくなったね!もうだっこできないや」
「うん!…でも、こうきお兄ちゃんにもうだっこしてもらえないのはいやだなぁ…」
「う~ん。あ、そうだ、ぼくがもっと大きくなれば良いんだよ!今ぼく、クラスで一番背がたかいもん!」
「ほんとに!?やったぁ、またこうきお兄ちゃんにだっこしてもらえる!こうきくん、大好き!!」
この頃が、二人がバランスの良いカップルでいれた時だった。
- 2012/03/05(月) 00:03:56|
- 投稿作品
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0